遠い思い出 奈良京都の旅

美容院で雑誌をめくっていると談山神社の頁があった。十三重の塔が紅葉の中に立っている。この写真の中に自分を置いてみる。そう。社会人になった翌年親友のMと秋の奈良京都の旅に出たのだ。もう昔のことで思い出も遥か彼方。急にMの声を聞きたくなり受話器をとってわれわれの奈良京都の旅を話した。
初めて訪れた談山神社の十三重の塔は圧倒的だった。Mと二人言葉もなく立ち尽くしたのを思い出した。次いで聖林寺の十一面観音を訪れるとこの寺の和尚さんは「いまごま豆腐を作っているから食べて行きなさい」と言ってくれた。観音様の説明はお坊さんご本人から聞いた。明日香村の橘寺には一晩泊めていただいた。秋深い僧坊のお風呂が寒々としていたのを覚えている。橘寺のお坊さんはまだ青年と言っても良い方でその晩は遅く迄わたしたちの話の相手をしてくれた。翌日の宿泊場所が決まっていないわたしたちに「姉の嫁ぎ先」を紹介してくれた。それが京都の有名な二尊院だった。立派な座敷に通され夕食はそれは素晴らしい精進料理だったと記憶している。秋の嵯峨野はまだ観光客も今ほどでなく本当の秋を楽しめたように思う。祇王寺、落柿舎などの静かな佇まいは今も保たれているのだろうか。