下駄を買う

仕事の帰りにSと会う。駅前のレストランで昼食をとりお茶も飲んで話し続けた。私たちはお互い生まれた国の違いを超えて結びついている。心を割って話せるお互いだ。自分のこと、家族のこと、年相応にカナダと日本の介護および医療保険のことなど。カナダへ帰ると社会人大学で「翻訳」の授業を受けると言う彼女は母語アラビア語のほか、フランス語、スペイン語、英語それに日本語が出来る才女なのだ。孫が生まれたことだし良い子供のための本でも訳したらいいんじゃない?と勧めてみた。「年取ってきたら話すときフランス語に英語がまじっちゃったりする」時があると言う。でも同時通訳じゃないから大丈夫のはずだ。
2時間ほど話してそのあと近くのショッピングセンターの中を一回りして別れた。今度会うのはいつか。来年こそこちらからカナダへ出向かなければ。
Sに別れてから下駄を買った。ふっくらとしたきれいな鼻緒がついていた。最後に下駄やへ行ったのは50数年も前だと思う。母が自分の下駄を買ったときだ。桐の美しい木目の台に似合いそうな鼻緒をあれこれ当てて選ぶ。あの頃は履物一つ買うにも何か趣きがあった。そんなことを思い出しながら今年の夏は近所周りに(具体的にはゴミ出しに行くとき)素足(ナマアシではない)で履いてみたいと思う。