ミュールの靴音、下駄の足音

気温があがってきて着るものが薄くなった。足元もおなじで若い人たちの間では素足でミュールなるかかとの高いスリッパ状の履物が流行だ。かかとが固定されていないため歩くとひどい音だ。コンクリートの階段を下りる靴音は耳を塞ぎたいほどだ。仕事の帰りわが町の駅にたどり着くとこの履物のおしゃれな若い人が2人。まだ通勤客の帰宅には時間があるから下りてくる人の数もそう多くはない静かな駅だ。その中2人の靴音は大きな空洞のようなコンクリートの駅舎内に高らかに鳴り響いていた。靴音もひどいしその不安定さを考えるといくら身のこなしのいい若者にも危険じゃないかと思ったりする。これは元々室内履きだったのではないだろうか。
少し前に買った下駄を履いてみる。鼻緒の下にそっと足をすべりこませたときほんの子供の頃を思い出した。夕方下駄を空高く放り上げ落ちてきた下駄の表が出たら明日は晴れ、裏返しになったら雨。裏返しになったら表が出るまで繰り返したものだ。久しぶりの下駄で少し歩いてみる。木の音は優しくいい音だ。ラフカディオ ハーンは木の橋を渡る下駄の音に日本を感じたと読んだことがある。