ウイッグ

仕事先に近い駅構内を歩いているとぶつかるように突進して来た女性がいた。何事?ととっさに除けようとするとこの人は私の手を握った。「先日メールを差し上げたTです」瞬間的に頭の中で記憶のテープを巻き戻す作業をした。「メールを下さったTさん?」しかし半信半疑の私。どう見てもTさんではないような気もした。「忙しくて白髪染めが出来なかったので今日はウイッグ!」と彼女は説明した。テレビでウイッグの広告を見たことがある。ぼさぼさで薄くなった髪の女性がウイッグを被ると瞬間的にエレガントでおしゃれな女性に変わるあの広告である。友人のUさんが買ったとも聞いた。しかし私自身は余り必要ではないと興味を持つことはなかった。今日初めて実際にウイッグをつけている人に会ったという訳だ。ウイッグに合わせて素敵に装っているTさんだった。講義の合間にもちらりと見たがきれいにセットされたウイッグは美容院から出て来たばかりの地毛の頭にも見えて何の違和感も感じなかった。