ジャック ティボー「ヴァイオリンは語る」

明るい日の光に書棚の埃が目立つ。思い立って畳一畳分だけ掃除をした。
1冊の古い本を見つけた。結婚したりその後何度か繰り返した引っ越しの後も今迄わたしとずっと一緒だった本。新潮社一時間文庫「ヴァイオリンは語る」がその書名だ。昭和28年9月15日発行、定価170円。購入した日は同9月27日となっている。この年フランスから当時の名ヴァイオリニスト、ジャック ティボーが演奏旅行で訪日することになっていた。この本は彼の自叙伝だ。
父の話にジャック ティボーやミッシャ エルマンなど戦前訪日した音楽家がよく出て来た。だから是非聴きたいと思った。父といっしょに演奏会に行く計画もあった。そして買ったのがこの本だった。4歳の幼いジャックが同じく幼少のモーツアルトの幻影と対話する場面を鮮明に覚えているので思わず頁を繰ってしまった。
ジャック ティボーはなんと日本での演奏会のため乗った航空機がアルプスにぶつかって帰らぬ人となってしまった。確かお嬢さんも一緒だったと思う。戦前に続いて戦争後の日本で待っていたファンの前に現れることはなかった。