「ワーグナーの妻コジマ」

電車の中は真新しいスーツに身を固めた若者が目立つ4月1日だった。それまでの準備され、保護されていた居場所から新しい社会に船をこぎ出す日だ。新社会人に幸多かれと祈りたい。
「コジマ」を読み上げた。コジマ、この名前はあのルネッサンスの巨人、コジモ ド メディチに由来するという。父リストは娘にどんな思いでこの名前を選んだのだろう。ワーグナーとその芸術に捧げた90余年に亘る人生を予感させるような名前ではないか。ワーグナーの音楽を聴いたことのないわたしはこの物語を一人の女性の生き様と捉えて読んだ。たとえ彼女が人生で幾つもの間違いを犯したとしてもその生き方はひたむきで美しく輝きは褪せない。堪能した。コジマの人生を辿るのに読んだページを何度もひっくり返すのが嫌でとうとうコジマの年表ーワーグナーのではないーを作ってしまった。