ヨーロッパのスリ

Uさんとの電話の中で彼女が言うには来日前パリでスリにやられたそうだ。何十年もヨーロッパに住んでいてもこれだ。
スリと言えば夫は5年前到着したばかりのブリュッセルでやられた。ホテルに着いてほどなくインターナショナル ヘラルド トリビューンを買いに行って来ると町に出た夫が興奮した面持ちで部屋に帰ってきた。「やられたよ!」とドアを開けると一言。らしくないと一瞬思って私はがっかりした。続く説明を聞いて今度はびっくりした。「取り返したよ!」と言うのである。とにかく取り返したのである。多分そのスリはプロでなかったのだろう。日本の中背でやせた老人が財布を取り返そうと突進したのに驚いて今盗んだ財布を出したのだから。
私はローマのストリートカーのなかで尼さんに「マダム、子供のスリがねらっていますよ」と忠告された。そばにいた若い男性が「危ないからここに腰掛けて鞄をしっかり持って」と座席を空けてくれた。「どうしてこういう子供を助けないの?」とその尼僧に訊ねると答えがふるっていた。「It's her job」こんなやり取りの間に当の少女は電車を降りて行ってしまった。
マサ子さんは昔家族とオランダを旅行中ストリートカーに乗った。込んだ電車の中で子供3人の世話に終始しているとどこかで日本の鈴のような音色がした。「ああなつかしい!」その頃アフリカに住んでいたから日本の音にも飢えていたのだろう。その音が遠のいて電車の中から消えたとき彼女ははっと気がついた。「あれは私のお財布の鈴の音!」スリも驚いたことだろう。財布が鳴りだしたのだから。