父のこと

かつて9月15日は敬老の日だった。そして父の誕生日だ。だからこの季節頻繁に父を思い出す。現在の自分を考える時父が教えてくれたことで今を楽しんでいる己に気がつき感謝で一杯だ。
子供の頃昼下がりの我が家のお茶の時間に祖母、母、叔母の間で繰り返される話があった。父の学生時代の話だ。上野の山で美術を勉強していた父はそのころ一番の流行の背広にソフト帽をかぶってあの界隈や銀座を闊歩していたのだという。この話は父の友人から出たというのである程度本当の事らしく、女どもは父の青春に思いを馳せて良く話題にしていた。父の隣にはいつも音楽学校の女子学生のガールフレンドがいたというのも必ず付け加えられる物語だった。話はこんな所で終わりだったが私はいつもこの話を更に自分で膨らましていた。
もし父がその音楽学校の女子学生と結婚していたら、、、もし音楽家が私のお母さんであったら、、、もしお母さんが私に音楽をたくさん教えてくれていたら、、、
実際の母は読書が趣味で、気っぷのいいそして温かい心の人で私はこの母が大好きだったが、申し訳なくもこんな事を想像する子供でもだった。