タクシー代は一体いくらだったの?

クリスマス頃からずっとDVDはルネ フレミングマインツ大聖堂におけるコンサートを観ていた。彼女の自叙伝「魂の声」に出会ってから彼女を聴くようになってこの映像にたどり着いた。荘厳な場所で宗教曲を歌う姿に深く感じ入るものがあった。ヘンデルの1曲は「シオンの娘よ、、、」で大好きな曲だ。遠い昔50数年前大学生になったとき知りそして歌った「メサイア」の中の独唱曲である。また「マリアの抱ける愛しエスは、、、」と日本語では始まる「マリアの子守歌」も素敵だった。何度観てもそのたび大きな満足を感じるDVDである。
その上もう一つ思い出した。K子の結婚式のあと夫のたっての希望で敢行したライン川下り。このコンサートの行われたマインツから乗船したのだった。1日半掛けでゆっくり市内を観て回った(グーテンベルグ博物館やシャガールの青のステンドグラスが美しい聖シュテファン寺院など)末に乗った船だった。夫は長年の希望が叶って川岸の美しい風景を見ながらずっと「ローレライ」を口ずさんでいた。突然船のアナウンスが流れエンジン故障という。その結果船は各船着場に止まる一番遅い便と化したのだ。「ブリュセッルに今夜のうちに帰れないのじゃない?」と何度訊ねてもも彼は大丈夫と船旅を楽しんでいた。しかしコブレンツに着いた時はタッチの差でブリュセル行き最終便が出た後。夫は「黙ってついておいで」と一言私とJを後ろに従え猛ダッシュで駅近くのタクシー乗り場へ。コブレンツからブリュッセルまで2時間ばかりで夏の遅い夕闇が迫るアウトバーンを超スピードで走ったのだった。翌朝新しく親族になったK子の義父母に会ったとき「昨日はちょっと帰りが遅くなりまして、、、」と何事もなかったように振る舞った私だった。一つ間違えば予約してあった飛行機に乗れなかったかもしれないのに。マインツ大聖堂のコンサートDVDを観てそんな8年前の事を思い出した。そして夫に訊ねた。「あの時のタクシー代は一体いくらだったの?」でもいまだその返事は聞いていない。