恩師の恋心

アツコさんと電話で長い長いお喋りをした。アツコさんとは10年来の友人関係。そうしばしばコンタクトをとるわけではないけれど折々思い出す素敵な女性だ。声がよく、賢く更に姿が良かったであろう少女の頃アツコさんは体操教師から年賀状をもらった事があった。その賀状にはこんな言葉が連ねてあった。「君に似た人見たり新春(はる)の街」。文学少女だったアツコさんはこのフレーズが気に入ってその後沢山の友人への手紙に拝借して来た。ところがつい1ヵ月程前のこと、朝日新聞土曜版beで大きな牛の写真とともに取り上げられた石川啄木と橘智恵子の物語を読んで(私も読んだ)心底驚いたと言う。それは智恵子への恋歌「君に似し姿を街に見る時のこころ躍りをあはれと思へ」で始まる啄木と智恵子の物語だった。彼女があちこちへの手紙に拝借したフレーズの出典はここにあったのかと思ったのだ。あの色の黒い柔道部顧問の恩師が「一握の砂」の愛読者で教え子への年賀状に自分の心模様を託すため啄木を借りたとすればこれも素敵な事とアツコさんは言った。50数年ぶりに恩師の恋心?が分かったアツコさんだった。