セールストーク「お似合いです」

H江さんは総額100万円の着物一揃いを買うことになったのだという。数ヶ月前のある日、彼女がふと思い出したのは結婚のとき母親が持たせてくれた着物のこと。長いこと袖を通すことはおろか、虫干しさえしなかったそうだ。それはわたしも同じこと。暇な時期だったので早速手入れを開始した。ちょうどその頃、「無料着付け教室」なる宣伝をミニコミ紙で見つけた。いろいろなことが一段落したところだし無料だしちょっと顔を出してみようか。そんなふうに気持ちが動いたという。それが事の始まり。着付けをしてもらって「お似合いです!」と皆から褒められいつの間にかはまったらしい。気がついたときは全て断ることが出来ない状態。つごう100万円なりの一セットお買い上げになってしまったという。事の次第を聞いてどんなことも最初の1歩をよく考えないと大変なことになるのだと肝に銘じた。彼女はその金額を出すつもりだしまた今回のことを断るチャンスを失ったとぼやいているもののだまされたととらずに着物に手を通すいいチャンスを貰ったのだから着物をじゃんじゃん着るわ、と前向きにとらえているからいいけれど。結婚のとき準備した着物をどう始末しようかと悩むわたしはもうどんなに安くてもどんなに「お似合いよ!」と言われても新しく和服を揃えることはないし、だまされただまされたと思ってストレスを抱え込むのは嫌だ。