父の思い出

爽やかな空気に包まれた一日だった。海辺の道は萩の花が匂い香しく満開になった。いつの間にか小アジサシは遠い夏の国へと旅立ったのか一羽もいない。代わりにゆりかもめが水辺を占拠していた。今朝はこれに郊外の田んぼからのお客、シラザギが5、6羽加わっていた。大きなボラがジャンプする。しかも3段飛びどころか、5段飛びだった。清々しい青空に向かってジャンプしたい気持ちは分かる。こんなに美しい空なのだもの。
今日は我が父の誕生日だ。亡くなって11年。でも私の中では年々その姿が鮮明になる。今朝は父を思いながら歩いた。中学生の時父はご多分に漏れずわたしから遠い存在だったが教えられた言葉「芸術は長し人生は短し」は決して忘れていない。上野で美術を勉強した人に相応しい言葉だ。
ほかにも父の印象的な言葉がある。サンルームであでやかに咲いた君子蘭を見て「母はお正月に合せて上手に君子蘭を咲かせる人だった」と言った。80歳を過ぎた老人の言葉である。私は打ちのめされた。この老人の心の中に生きる母の美しい姿。私は3人の子の母になったが死んだ後父の発したような言葉とともに子供達に思い出してもらえる資格があるのかと。君子蘭のオレンジ色の花を見るたびちょっと心が痛む私である。