懐かし、少女時代の映画鑑賞

M代と少女時代の思い出で長電話になってしまった。何しろ今の時代には考えられないけれど私たちの学校は映画禁止だった。M代以外の友の事情はどうだったか知らないが私たちはこの校則を大いに破っていた。
我が家では映画は一つ返事で何時でも父が連れて行ってくれた。というより父が率先して映画を観ていたと思う。しかも全て洋画。最初に観たのがディアナ ダービン主演の「オーケストラの少女」。「アレルヤ」を歌うダービンの帽子飾りがシートの間に揺れるシーンが忘れられない。「カーネギーホール」「制服の処女」なんていう映画も観た。殆ど毎週観ていたと思う。今でもちょっとした罪悪感を感じるが父と母の妹、つまり叔母にはさまれて見つからないように配慮しながらの鑑賞だった。
しかしある日の朝礼拝(ミッションスクールだったから)の終わりに校長先生が「ゆうべ『真夜中の愛情』という映画を観に行った人はわかっているから今正直に立ちなさい」とおっしゃったのだ。心臓が音を立てている。正直に立とうかどうしようか。でもこれで母の立場はなくなるだろう。校長先生は続けた。「今正直にしない人は教室へ帰るとき列から引っ張り出す」
心は決まった。全校生徒の前で立ち上がるより行列から引っ張り出される方がまだましと。結果は?口から飛び出しそうなほど高鳴る心臓を抱えたまま私は校長先生の前を無事通り抜けたのだった。
父と観た最後の映画は「略奪された七人の花嫁」だった。これを最後に大学生になった私は父と一緒の映画鑑賞から卒業した。