シクラメンの一鉢

町の花屋は色とりどりのシクラメンが美しさを競っている。私も一鉢買った。子供の頃の大晦日おせち料理がすっかり出来上がり、家の掃除が終わると母は私を連れて夜の町に出て行くのを恒例にしていた。花屋もあの頃は遅くまで開いていたものだ。この日の買い物はシクラメン。今のように形は勿論色も種類が多いわけでなくショッキングピンクと白くらいだった。母は迷わず毎年あでやかなショッキングピンクの大鉢を買っていた。寒い町を大きな鉢を抱えて母と腕を組んで帰路につく。この時のささやかな仕合せ感が急に思い出された。そして私を包んだ。