「読むクラシック」を読む

夫の本屋参りに付いて行って何気なく目の前に平積みされている新書を手に取った。それが「読むクラシック」だった。仕事の行き帰りに読むつもりで買って作家佐伯一麦を知った。(今頃?と言われそうだが、、、)タイトル通りクラシック音楽にまつわるあれこれが書いてあるのだがただの音楽好きの思い出話ではなかった。読み進むにつれてページをめくる自分が変わって行くのが分かった。一編一編が彼の少年時代青年時代の断面を鮮やかに活写していて迫って来たから。将来作家になると思い定めて大学受験をせず作家としての素養を蓄積するのに費やす彼を巡る友人達を描いた一編を読んだときはーそれが普通の描写なのにも関わらずー急に胸にこみ上げるものがあった。
ばりばり働く壮年時代も素晴らしい.そして老いの時代も収穫の時と見れば素晴らしい。しかし未知の世界を夢見て夢中で生きる青春の日々こそ素晴らしいと思った。汗臭い学生服、ちびた踵の靴を身につけた(あの頃の学生は皆そうだったと思う。そうじゃなかったら佐伯さん、ごめんなさい。)男の子が将来作家として世に問う感性を日々育んでいたと思うと感動してしまった。
何章かに分かれているがわたしは特に第1章とも言うべき日本篇Iが好きだ。数日後の新聞で著者が今年度の朝日賞に輝いたことを知った。地味な新書版のこの本。誰にも渡したくない、しかし誰彼に読んでと言って回りたい私の大切な本になった。そしてこれから佐伯一麦という作家を知ろうと思っている。