思い描くコジマ ワーグナーの肖像

在宅の日は家事が山積してとても読書まで手が届かず分厚いハードカバーを
仕事の鞄に入れて持ち歩く日が続いている。それが「ワーグナーの妻コジマ」
だ。古い本で活字も細かく読むのは大変だが一ページごとに刻み込まれてい
るこの女性の姿に心を奪われてしまった。恋多き父リストの子として生まれ、
高名な音楽家ハンス フォン ビューローを夫として娘を二人もうけ、つい
に天才ワーグナーの若き妻となった。更に三人の子供を生み育てつつ、家庭
生活、二十四歳も年上の夫の作曲家としての日々、王ルートビヒワーグナー
との取り持ち、更にはバイロイトの全てに関わって生きて行く姿は一言で「す
ごい!」と思う。
「白いサテンに黒ビロードで縁取りしたガウンをまとって部屋から部屋へ妖精
のように渡り歩く」とか「薄紫のサテンローブがほっそりした体を包み真珠の
粒が美しい髪、首筋、腕を飾った」とか「生き生きした大きな目、知的な、や
や青白い顔は偉大な巨匠の伴侶に相応しい女性であることを示していた」更に
は「彼女の頭の仕草、優雅な歩き方」などの描写は私の目の前に今にも彼女が
出現しそうにさえ思わせる。活動的に動き回るコジマの衣擦れまで聞こえそう
だ。
一昨日の夜遅くハイビジョンでルネ フレミングワーグナーを歌っていた。
ルツェルン音楽祭の映像だ。「夕映えに」を聴いてその詩にワーグナーとコジ
マ、二人が住んでいたルツェルン郊外の家とその周囲の自然を思い重ね深く感
動した。本は三分の二まで来たところ。コジマの活躍はまだまだ続いてわたし
を楽しませてくれるだろう。