「お早う」と「お早うございます」の間

海沿いの道のウオーキングではいつもの面々とすれ違う。何回かすれ違ったらお互いにちょっとした挨拶を交わすのがいいのでは。この時日本語の使い勝手の悪さにとても困る。「お早う」では相手との距離が近過ぎる。では「お早うございます」はどうか。これでは丁寧すぎるし長過ぎて言い終わらないうちに相手は通り過ぎてしまう。さりとていつも会う人と黙ってすれ違うのは本当に格好が悪い。仕方なく私はちょっと首を傾げることにはしている。「お早う」と「お早うございます」の間にいい表現はないものか。
ジュネーブの郊外メランに滞在していた頃子供を幼稚園に送って帰宅する道すがらいつも一人のおじいさんに会うようになった。小さく痩せたイタリア系のお年寄りで三つ揃いのスーツにネクタイ。ソフト帽をかぶっていた。そして体に不釣り合いな大きなダルメシアンを連れていた。2、3度すれ違ううちに我々は挨拶を交わすようになった。「Bonjour,Monsieur」「Bonjour,Madame」時には微笑みと共に。或る時はつっけんどんな表情で。その日の心模様が透けて見えるような表情で来る日も来る日も私の帰国の日まで挨拶を交わした。朝の挨拶にまつわる遠い思い出。