声が持つ魔法

F夫人から朝一番の電話があった。「ブラボー,ブラボー、ブラボー」でその電話は始まった。数日前「観てください」と渡してあった新国立劇場版「ランメルモールのルチア」をゆうべ趣味を共にするご主人と2回も通しで観てしまったという。私の癖で自分がいい、好きだと思う事を人に押し付ける。このDVDも購入以来何度観たことか。その上自分が観るだけでは治まらず他人に押し付ける。しかし今回のように楽しんでくれると嬉しい。
私はハードディスクに入っていたアラーニャの「カルメン」を観て更にドミンゴが演じているものを観た。舞台装置、演出の違いで味わいの異なる「カルメン」が楽しめた。ただ駆け出しのオペラファンにはここまでが精一杯。激しい現代化の洗礼を受けた演出はたとえ演じる人が素晴らしくてもまだ楽しむ余裕がないのだが。
Cさんは心が弱い時オペラは観られないと言う。私はそうじゃない。元気なときは勿論何か心に迷いがある時オペラは、声の音楽は全てを消し去ってくれる。音楽にすっかり身を預けて聴けば迷うことなく次のステップへ進む勇気を与えられる。これこそ声が持つ魔法だと思う。