野良猫のいない海辺

暑くもなくさりとて寒くもなく良い季節だ。そしてあっという間に日が短くなったこと。早起きの私が起き出す5時、辺りはまだ暗い。明けるのを待って散歩に出掛ける。海辺の朝の楽しみは晴れ上がった空、朝日に輝く波打つ海、そして野良猫のムっちゃん(捨て猫に私が与えた名前)。マリーナの近くの茂みにはたくさんの猫達が心暖かい人の世話で生きていた。「生きていた」、過去形だ。つい数日前いつも通り茂みをのぞいてその猫達の1匹、「ムっちゃん!」を呼んだが出てこない。傍を通った人がこの辺の猫はみんな始末されてしまったと教えてくれた。ここ一週間ほど一度も姿を見ていなかったが理由はそれだった。このムっちゃんは何も自分の名前を覚えていた訳でなく私の声を聞き分けて食べ物をくれるでもない私にすっかり気を許して体をなでてもらうため茂みから姿を見せていたのだ。彼女はここで生まれた。生まれながらの野良なのになぜか人なつこかった。野良猫の命ははかない。人間に飼われたかと思うと捨てられ、あげくの果てにはもの同様に処分されてしまう。この虎猫も同じ短い運命を終えたのだろう。朝の散歩の楽しみが一つ消えた。