不思議な涙

新しく手に入れたCDに夢中だ。ベスト クラシックス100のディスク3がそれだ。あまたある名曲、それを演奏する素晴らしい歌手達。その中から選ばれた輝かしい16曲だ。どれが一番いいとは言いがたいが私が特に耳をそばだててしまうのがアグネス バルツアの「エウリディーチェを失って」とロス アンヘレスの「オーヴェルニュの歌」。何度聴いてもこれらの曲の時仕事の手を止めて聴き入ってしまう。
今朝不思議な経験をした。いつもの通り都心のカッフェで仕事前の朝のコーヒーを口に運んでいるときのこと。このディスクの演奏は先に進んでそろそろ終わりに近付いていた。アラーニャがフランス語で歌う「オ ホーリーナイト」が始まった。1番の終わりの部分で「ノエール、ノエール」の美しい歌唱にさしかかったとき不意に本当に不意にたくさんの涙が溢れ出てしまった、悲しい事があったわけでもなく。次の瞬間脳裏に子供の頃のクリスマスのシーンが強烈に映し出された。音楽というものは過去にそれを聴いたときの経験と密接に繋がっているのだろう。眼鏡の奥の涙は忙しい仕事開始前の客誰にも気がつかれる事はなかったが数十年前の少女の頃の思い出に浸った朝だった。