従兄の死に

従兄の葬儀に参列した。中山道沿いの古い町の旧家。その当主だった彼も若い時己が描いていた人生とは違う道を歩んだ。言い換えれば古い家の維持のなかで自分らしい生き方とは遠く離れた所にある人生だったかもしれない。ともあれ初冬とは言え穏やかな日が射し紅葉の木々の間に野鳥の声を聞きながらの野辺送りは穏やかな晩年を過ごした彼にふさわしいものだった。
この町は戦火を逃れてわたしたち親子4人が身を寄せたところでもある。大きな伯父の屋敷の2階に間借りして戦中戦後の約1年半を過ごした所。私にとって大切な所だ。伯父の大きな書架には立派なグリム童話集、アンデルセン童話集、小川未明集など素晴らしい本が並んでいてわたしは学校から帰るとこれらの本にかじりついていた。土蔵に入ればたくさんの子供の雑誌や講談社の絵本があった。戦火から逃れたものの日々の食べ物にも事欠く時代わたしたち子供は結構な文化的環境にあったと思う。あの本の数々は今も健在なのか。集まった親戚の中でこんな古い時代を知っているのは私ともう一人1歳年下の従弟くらいだった。