緑濃き上野の森へ、そして去る者は日々に疎し

上野の森はいつの間にか緑濃い落ち着いた様子になっていた。緑の中に所々八重桜のピンクと紅葉の若い赤が彩りを添えている。有名な桜の時期より私は大騒ぎが終わった後の今のほうが好きだ。ここに来ると若き日「美校」(父はこう呼んでいた。)でデザインを学んだ愛する父を懐かしく思う。
Mから回って来た招待券でプラド美術館展を観た。期待に違わぬ大きな、内容の濃い美術展で満足した。会場に入るとすぐスペイン王家の王女姉妹の素晴らしい肖像画が置かれており、展覧会の内容によい期待が持てた。私は肖像画が好きだ。絵の中の人々は性格まで描き出されていて、はるばるマドリードから運ばれた数々の傑作を楽しむことが出来た。ムリーリョの「無原罪のお宿り」のマリヤは少女の頃から親しんだ絵である。いつものことながら音声ガイドで代表的な作品の解説を聞くことで多少理解を深めることが出来たかと思う。買うのは帰路が大変になるので極力避けたいところだが今日はカタログを買ってしまった。
美術館の帰りにE子の亡くなったご主人の作品に会いたくてちょっと回り道してみた。彼と同じ路線の作品が設置されていたが彼の作品はもうなかった。去る者は日々に疎し。しかし家族と友人だけはずっと彼を忘れることがないし、その芸術は真の愛好者の記憶に長く留まることだろう。