2月から友人に貸してあった大切な愛読書が宅急便で送られて来た。人に何かを貸してなかなか返してもらえない経験は誰にでもあるだろう。それで私は5月一杯と期限を切ったのだった。本の到着を知らせる電話をすると彼女は受話器の向こうで字が小さくて読むのに苦労したと返却の遅れをしきりに謝っていた。読むのは大変だったと思う。なにしろ古い本だから活字が本当に小さいのである。貸した本は2冊、『真実なる女性 クララ シューマン』および『ワーグナーの妻 コジマ』である。この2冊は大体同時代にヨーロッパの音楽界に名を馳せた二人の女性の生涯を書いたもので私にとって大切な本である。
友人は独り身の気軽さと音楽好きで過去何度もドイツに出掛け音楽にまつわる様々の場所を訪れている。今夜の電話は延々1時間を超える長いものとなり本の感想や彼女が過去の旅行で見聞きしたこととの繋がりを聞いて楽しかった。本で読むのはいいがやはり実際に見て手で触れてその場の空気を吸わなきゃ駄目だと思った。