ディーヴァの底力は低炭水化物ダイエットとピラティス

ルネ フレミングの自叙伝「魂の声」を読み上げた。音楽教師の両親のもと一日中音楽が流れる環境で育ち世界各国の歌劇場を征服したルネが来し方を丁寧に理知的に書いた1冊の本。或る人に「今この本を読んでいるの」と本を掲げてみせたら、この数年私がはまっている際限ないCD、DVD購入の一部始終を知っている彼は「えっ!また?」と言って「病膏肓に入る」と続けニヤッと笑った。何を言われようと大満足の読書だった。人の持つ声の魔力に魅せられてリートやオペラを積極的に一心に聴いて来た何年か、歌い手に対して多くの疑問や知りたい事が溜まってしまったがルネの言葉を通して理解が進み疑問も解けたり大いに得るものがあった。ヴェルディの「オテロ」を初めて観たとき美しい音楽だと思ったが理解できたと言い難かった。その後ガルージン/フリットリの「オテロ」を観たり今度ルネの解釈を読んだりして理解が進んだと感じているからHDDに録ってあるこの歌劇を再度観ようと思っている。
一番感動した箇所はほんの数行のエピソードだ。ルネがミュンヘンシュトラウスを歌ったときのこと、ステージに出る直前指揮者クライバーの携帯からかかって来た1本の電話の話だ。クライバーシュトラウスの墓前で電話をかけたのだという。「僕ら2人が今夜の成功を祈っていると言いたかったんだ」と言いガルミッシュの教会の鐘を聞かせてくれたそうだ。又興味深かったのは現代の歌姫はいかにして体力を維持しているかという点だった。演出家は彼女に様々なポーズをとって歌わせる。それを可能にするのが低炭水化物ダイエット(我が夫も何処で仕入れて来たのかこれにはまっているから食事を作る私はたいへんである)とピラティス(ヨーガを組み込んだエクササイズ)なのだそうだ。本の終わり近くメトの「椿姫」の舞台裏を活写している。この部分は本当に読み応えがあった。もしこの本にもっと早く出会っていたら忙しい事を予測して断念したこの春の「椿姫」を是が非でも観に行ったのにと返す返すも残念に思う。
読み終わって今度は私のCD購入の癖がルネに向かって蛇行するのを恐れる。今持ち合わせているのは彼女のアリア集1枚、オペラアリア集数枚に収められている「月に寄せる歌」など数曲とアルバレスとパリで歌った「マノン」全曲のCD/DVDだけだから。