ところでお名前は?

なんとも疲れた日だ。「椅子に腰を下ろした」と感じたのは夕食の時であった。朝9時半に家を出てから移動の電車の中、お昼にエジプト人のご主人とKさんが売っていたピタパンををぱくついたときくらいしか腰を下ろすことがない日だった。アンクルンの演奏はまあまあの出来。沢山の人が詰めかけて楽しく聴いてくれたことが我々の励みだ。インドネシアの子供の歌メドレーやその他幾つも演奏しなれている曲は皆成功したけれど「オーバー ザ レインボー」などはまだ練習が必要な出来だったと思う。日本古謡「さくらさくら」は烈風と寒さの中わざわざ聴きに来てくださった人たちには近付く春を思い描いたのだろうかとても好評だった。私もよく演奏出来たと思う。国際交流の集まりなのでカナダ人のLさんの和服姿、韓国女性のIさんの、本当に美しい赤の花嫁衣装などが雰囲気を高めていた。私はアンクルン演奏に参加するためインドネシアのコスチュームだった。今日はオレンジ色のスカートに黒レースの上着で同じくオレンジ系のストールを肩に掛けてみた。みんなで写真を撮る。
今日の集まりにはこの十数年の仕事で付き合いがあった方々が沢山見えていて演奏の後は挨拶を交わす。一言掛け合っただけの人もいれば延々30分以上話し込んだ人まで30人は下らなかったと思う。極めつけは駅に向かって歩いているときその人は「さようなら」と挨拶してすれ違った。彼女は直後私を追いかけて来て話し始め、二人はデパートの太い柱の陰に身を寄せ風をよけながら話し込んで20分。顔はよく知っていながら名前を思い出せない相手だった。結構お互いの関心事に付いて深い話をしたあと「ところでお名前は?」とは訊ねられなかった。帰宅してすぐ夕食の準備。やっと「腰をおろした」と感じたのが夕食の時だった。